土地家屋調査士試験の勉強、お疲れ様です!民法の「相続の承認と放棄」は、実務に出てからも避けては通れない最重要テーマの一つです。「相続人が財産に手をつけてしまったらどうなるのか?」という視点で整理すると、条文がスッと頭に入ってきますよ。
この記事では、令和7年度 午後の部 第3問を題材に、根拠となる条文を示しながら分かりやすく解説します。一緒に「なぜそうなるのか」を確認していきましょう!
① 問題と難易度
【問題の要約】
相続の承認および放棄(熟慮期間、管理義務、限定承認、法定単純承認)に関するア〜オの記述のうち、誤っているものの組合せを選ぶ問題です。
【各選択肢の要約】
ア:相続放棄は、法務局または地方法務局に申述しなければならないか。
イ:相続人は、承認・放棄をするまで、固有財産と同一の注意をもって管理義務を負うか。
ウ:限定承認者は、相続債権者に弁済した後でなければ、受遺者に弁済できないか。
エ:相続を知りながら保存行為をしたときは、単純承認をしたものとみなされるか。
オ:共同相続人の一人の熟慮期間が経過しても、他の相続人の期間内であれば共同して限定承認できるか。
【難易度判定】
Aランク(必答)
民法親族・相続編の中でも超ド定番の知識ばかりです。特に「法定単純承認(何をやったら承認したとみなされるか)」と「管轄裁判所」の引っ掛けは、絶対に落とせません。
【一言アドバイス】
この問題は「誰に」「いつまでに」「手続をするのか」という基本的な手続きの流れを押さえていれば、すぐに正解を引き出せるサービス問題です。
② 10秒でわかる結論
「相続放棄の申述先は家庭裁判所」と「保存行為は単純承認にならない」という、基本中の基本に気づけるかが勝負です。
(根拠条文:民法第915条、第921条、第938条等)
③ 思考プロセス ~法令・判例で斬る解法実況~
それでは、各選択肢を分析していきましょう。
肢ア
第1層:直感的判断(キーワード反応)
「法務局又は地方法務局に申述」というワードに強烈な違和感を覚えます。登記じゃないんだから法務局じゃないでしょ、と反応したいところです。
第2層:法令根拠の提示
根拠は民法第938条(および第915条等に関連する家事事件手続法)です。相続の放棄は、「家庭裁判所」に対して申述をしなければなりません。法務局ではありません。これは試験委員からの明らかな引っ掛けです。よって本肢は「誤り」です。
肢イ
第1層:直感的判断(キーワード反応)
「固有財産におけるのと同一の注意をもって管理」という自己のためにする管理責任の話です。
第2層:法令根拠の提示
根拠は民法第918条第1項です。「相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない」と規定されています。善管注意義務(善良な管理者の注意義務)までは要求されません(自己の持ち物と同じ程度でよい)。よって本肢は「正しい」です。
肢ウ
第1層:直感的判断(キーワード反応)
限定承認における弁済の順序です。「債権者」と「受遺者」なら、そりゃあ債権者が先だよね、と常識的に判断できます。
第2層:法令根拠の提示
根拠は民法第931条です。「限定承認者は、前二条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない」と規定されています。もともとお金を貸していた債権者と、タダでもらう受遺者とでは、当然債権者が優先されます。よって本肢は「正しい」です。
肢エ
第1層:直感的判断(キーワード反応)
「保存行為」=「単純承認」?いや、保存行為(雨漏りの修理など現状維持)は相続財産を守る行為だから、ペナルティ(法定単純承認)を受けるのはおかしいと気づきます。
第2層:法令根拠の提示
根拠は民法第921条第1号ただし書です。原則として「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は単純承認とみなされます(法定単純承認)。しかし、ただし書で「保存行為・・・をするについては、この限りでない」と明記されています。財産を売却(処分)したなら承認したとみなすべきですが、保存行為は対象外です。よって「単純承認をしたものとみなされる」とする本肢は「誤り」です。
肢オ
第1層:直感的判断(キーワード反応)
「限定承認」「全員で共同して」という原則と、一人が熟慮期間経過しちゃった場合の例外の話です。
第2層:法令根拠の提示
根拠は民法第924条を前提とした民法第923条の適用関係ですが、実はここで問われているのは少しトリッキーな知識です。民法第923条は「共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる」としています。もし一人が単純承認(熟慮期間経過による法定単純承認を含む)をしてしまった場合、もはや「全員が共同して」限定承認をすることはできなくなります。
(※一人が期間経過=単純承認みなされる=限定承認の要件を満たさなくなる)。したがって、残りの人も限定承認はできず、本肢は「誤り」です。
※【補足】問題の指示は「誤っているものの組合せ」です。明らかに誤りであるアとエが含まれる選択肢を探します。
【まとめ表】
| 肢 | 正誤 | 根拠法令 | 判例・先例 | ひっかけポイント |
|---|---|---|---|---|
| ア | × | 民法第938条 | なし | 家庭裁判所か法務局か |
| イ | ○ | 民法第918条第1項 | なし | 「善管注意義務」ではない点に注意 |
| ウ | ○ | 民法第931条 | なし | 相続債権者と受遺者の優先順位 |
| エ | × | 民法第921条第1号ただし書 | なし | 「保存行為」と「処分行為」の違い |
| オ | × | 民法第921条第2号、第923条 | なし | 一人の熟慮期間経過による共同での限定承認の可否 |
→ 正解は 2(アとエが誤り)またはこれを含む誤りの組合せ(本問の選択肢構成からは肢ア・肢エが確実な誤り) となります。
(※選択肢の組合せにおいて、ア、エ、オが❌ですが、肢エが明確な法定単純承認の例外として絶対の証拠となります。)
④ 【重要】実務との交差点
土地家屋調査士の実務において、「相続」は日常茶飯事です。例えば、表題部所有者が亡くなっており、その相続人から建物の表題登記や滅失登記の依頼を受けることがあります。
その際、相続人が「実は親の借金が多そうなので、まだ相続放棄するか迷っているんですよ」と相談してきたら、我々は要注意です。「それなら、とりあえず古い建物を急いで取り壊して(滅失登記して)更地にしましょう!」と提案して実行させてしまうと、その「取り壊し」が民法第921条の「処分行為」とみなされ、法定単純承認が成立(=借金を背負う羽目になる)してしまうリスクがあるからです。
実務では、依頼者の法的状況(相続放棄の可能性など)を把握し、「保存行為」にとどまるのか「処分行為」にあたるのかを慎重に見極める視点が非常に役立ちます。試験勉強は、現場でお客様を守る防具になりますよ!
⑤ 関連条文・判例リスト(受験生の自習用)
- 民法第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間):「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」(熟慮期間)。
- 民法第921条(法定単純承認):この条文は絶対に暗記!「処分したとき」「期間経過(熟慮期間)」「財産隠匿等」。
- 民法第923条(共同相続人の限定承認):「全員が共同してのみ」。一人でも単純承認すると詰みます。
- 民法第938条(相続の放棄の方式):申述先は「家庭裁判所」。
⑥ 受験生が気になるFAQ
Q. 法定単純承認の「保存行為」って具体的に何ですか?
A. 壊れかけた屋根の修理(雨漏り防止)、腐敗しやすい生鮮食品の廃棄、期限が迫った債務の弁済などが保存行為にあたります。財産の価値を維持・保全するための行為は、単純承認(ペナルティ)の対象にはなりません。
Q. 限定承認と相続放棄の違いが覚えられません。
A.
「相続放棄」はハナから「私は相続人ではありません!」と全スルーする制度。一人でも単独でできます。「限定承認」は「プラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの借金を払います」という条件付きの承認で、計算や精算の手続きが面倒なので「全員で共同して」やる必要があります。
Q. 「家庭裁判所」と「法務局」のひっかけはよく出ますか?
A. 頻出です!特に相続放棄の申述、遺言の検認、特別代理人の選任などはすべて「家庭裁判所」です。法務局(登記所)が関与するのは「登記」や「法定相続情報証明制度」「自筆証書遺言書保管制度」等に限られます。しっかり区別しましょう。
⑦ まとめ・受験生へのエール
相続の承認と放棄は、出題パターンが決まっている「得点源」です。特に「法定単純承認」の要件は、実務でも試験でも最重要プロトコルの一つ。
この分野を得点できれば、民法の足切りラインをグッと突破しやすくなります。条文の「ただし書」に着目して、正確な知識を積み上げていきましょう。現場で知識を生かせる日が必ず来ますよ。応援しています!
【※法改正により変更の可能性あり。最新の条文をご確認ください】
※この記事は土地家屋調査士試験の合格者による学習支援を目的とした情報共有であり、法的助言ではありません。条文・判例の引用は正確を期しておりますが、法改正や新判例により内容が変わる場合があります。最新の情報は法務省の公式サイト、e-Govの法令検索、および裁判所の判例検索で必ずご確認ください。

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